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环球看热讯:《铃芽之旅》第一章第三节小说中日双语翻译

私たちにしか見えないもの


(资料图)

只有我们能看见的东西

昼休みに入ったことを告げるチャイムが、きんこんかんと鳴っている。おう岩戸、今来たと?あれ鈴芽、なんや顔色悪いっちゃない?何人かの言葉に曖昧な笑みを返しながら、私は自分の教室に入る。

「……やっと来た」

窓際の席でお弁当をつつきながら呆れ顔の絢が言い、

「重役出勤やねえ、鈴芽ぇ」

その隣で、半笑いのマミが卵焼きを口に入る。

「あ―……まあ、うん」

私は笑顔を作りながら、二人と向かい合わせに腰を下ろす。お昼時のざわめきと窓からのウミネコの鳴き声が、思い出したように耳に届き始める。私はなかば自動的にリュックからお弁当箱を取り出し、蓋を開ける。

「きゃ―、出たわ―、おばさん弁当!」

预示着午休时间到了的铃声在叮咚叮咚地响着。“听说岩户(铃芽)刚到?”“诶?铃芽你脸色怎么这么难看~”我对这几个人的话一边回以难以捉摸的微笑一边走进了教室。

“……终于来了!”

在窗边一边吃着便当一边发呆的绚说道。

“抽空上学是吧,铃芽!”

绚的旁边,麻美笑着往嘴里扔了一块鸡蛋烧。

“啊…… 嘛,嗯。”

我一边摆着笑脸一边在她俩对面坐下。午休时吵闹的声音和海鸥的叫声传入了我的耳中,我习惯性的从背包里拿出了便当,并打开盖子。

“锵锵!出现啦!阿姨便当。”

二人が面白そうに声を上げる。おにぎりが、海苔や桜でんぶで飾れて雀のキャラ顔になっている。錦糸卵がアフロヘアになっている。グリーンピースが鼻になっている。ソーセージがピンクの頬となっている。卵焼きにもウィンナーにも海老フライにも、にっこり笑う目と口がある。今日も愛が深けえねえ。これ作るのにおばさんどんだけ時間かかっちょっと?えへへ、と私はとりあえず笑い声を返してから、顔を上げて二人を見る。あまり上手く笑えない。

这两个人滑稽的笑声传了过来。饭团被海苔和樱花碎装饰成了麻雀的脸,煮熟的鸡蛋丝被装扮成了个非洲爆炸头,豌豆被当成了鼻子,香肠变成了粉红色的脸颊,连小香肠和炸虾都有了笑嘻嘻的眼睛和嘴巴。

“今天的环阿姨也很爱你哦。”

“要做这个环阿姨得花多长时间啊”。

“嗯……”总而言之我先向她俩回笑道,然后抬头看了看她们,我实在是笑不太出来了。

「あのさあ……上之浦の方に廃墟あるでしょ?古い温泉街」

と、私は二人に訊いてみる。

「え、そうなん?絢、しっちょる?」

「ああ、あるみたいやね、バブルの頃のリゾート施設。あっちの山ん中」

絢の指差す先を、私たちは揃って見上げる。風に揺れる日灼けしたカーテンの向こうには、昼下がりの穏やかな港町。小さな湾を囲む岬があり、その上に低い山がある。さっきまで私がいた場所だ。

「それがどうしたと?」

「ドアが……」と口にした瞬間、あれほど笑い飛ばしたいと願っていた感情がすっかりしばんでいることに私は気づく。あれは夢じゃない。でも、友達とシェアできるようなこともでもない。あれはもっと個人的な―。

「やっぱいいや」

「なによ!最後まで言いないよ!」

“那个,上之浦那边有个废墟吧,就那个古老的温泉街。”我向二人询问道。

“嗯,是吗?绚,你知道吗?”

“啊,好像有吧,是泡沫时期的度假村设施,在那边的山上。”

我们抬头看向了绚手指的方向,在风中摇曳,被太阳照射的窗帘的那边,是一个午后宁静的港口城市。那里有一个围绕着小湾的海角,上面有一座低矮的小山。是我刚刚所在的地方。

“那个怎么了吗?”

“有个门……”在我脱口而出的这个瞬间,我发现我曾想和他们谈笑分享这个事情的情绪已经完全消失了。这不是梦,但这也不是可以和朋友一起分享的,这个是更个人化的。

“果然还是算了。”

“什么啊!给我说完啊!”

二人の声がぴったりと揃う。二人の顔の向こう、あの山から、細い煙が立っている。

「ねえ、あそこ、火事かな?」

「え、どこ?」

「ほら、あの山のとこ」

「え、どこお?」

「ほら!煙が上がっている!」

「ええ、だからどこねぇ?」

「……え?」

伸ばした指先から、力が抜ける。「あんた分かる?」「分からん。どっかで野焼きしとるとか?」眉根を寄せて言い合う二人を見て、それからもう一度山を見る。赤黒くゆらぬく煙が、山の中腹から昇っている。青空を背にこんなにもくっきりと、その煙は見えている。

两人的声音同时发了出来。在她们那边,山的那里,升起来一道细细的烟。

“诶,那里,是发生火灾了吗”

“嗯?在哪?”

“你看,就在那边山上。”

“嗯?哪啊”

“看啊!烟都升起来了!”

“啊?所以在哪啊?”

“……嗯?”

我伸出的手指突然就泄力了。

“绚,你看到了吗?”

“没有诶,是不是有人在野炊啊?”

我看了看正在互相皱眉头的二人,又看了看那边的山。一股红黑色的烟雾正在从山坡上升起,在蓝天的衬托下,这股烟变得清晰可见。

「わっ!」

突然、スカートのポケットの中でスマホが音を立てた。同じ音が周囲からも一斉に湧き立つ。大音量で繰り返される恐ろしげな不協和音、地震警報のブザー音だ。教室中に小さな悲鳴が上げる。

「え、地震やって!」「ええっ、まじ、揺れとる!?」

私も慌ててスマホを見る。緊急地震速報の警告画面に『頭を守るなど揺れに備えてください』の文字。周囲を見回す。天井から吊るされた蛍光灯が、ゆっくりと揺れ始める。教卓からチョークが落ちる。

「わ、ちょっと揺れとる!」「揺れとる揺れとる」「これヤバイやつ?」

皆が揺れの大きさを見定めようと、動きを止め息を吞んでいる。蛍光灯の揺れ幅が大きくなり、窓枠がかすかに軋む。足元がすこし動いている。それは徐々に収まっていくように思える。地震警報のブザー音も消え始める、やがてどのスマホも静かになる。

“啊!”

突然,手机在我的裙子口袋中发出了声响,紧接着,一阵同样的声音在我周围一齐发出。这是一种响亮的,重复的,令人恐惧的声音,是地震警报的嗡鸣声,教室里发出了一阵小小的哀嚎。

“啊,说是地震了。”

“啊?真的假的,晃起来了?”

我也赶忙看了看我的手机,地震紧急预警的警告屏幕上写着【请做好防震准备,保护好自己的头部】,我环顾四周,悬挂在天花板上的日光灯开始慢慢摇晃起来,讲台桌上的粉笔也开始从上面掉落下来。

“啊,有点晃起来了!”“震起来了,震起来了!”“是不是不太妙啊?”

每个人都待在了原地,屏住了呼吸,试图鉴定一下震动等级。日光灯晃动的幅度更大了,窗框发出微弱的吱吱声,脚下的地板在微微晃动,但我觉得它会慢慢停下来。地震警报的嗡鸣声开始慢慢减弱了,很快所有人的手机都安静了下来。

「……止まった?」

「止まった止まった。なんだ、たいしたことなかったな」

「ちょっとビビったわあ」

「最近ちょっと多いね、地震」「もう慣れたわ」「防災意識が低いね」「もこつ通知が大袈裟すぎるとよ」

ほっとしたざわめきと弛んでいく教室の緊張が、でも私には遠い。私の背中にはびっしりと、さっきから玉の汗が浮き続けている。ねえ、と出してみた声が掠れる。

「ん?」

絢たちが私を見る。きっとまた同じ名のだと頭のどこかで理解しながらも、私は二人に言わずにはいられない。「あそこ、見て―」

山肌から、巨大な尾のような物が生えている。さっきまで煙に見えていたそれは、今では更に太く高く、半透明な大蛇のようにも、束ねて縒ったボロ切れのようにも、竜巻に巻き上げられた赤い水流のようにも見える。ゆったりと渦を巻きながら、空に昇っていく。あれは絶対に善くないものだと、全身の悪寒が呼んでいる。

“……停下来了?”

“停了!停了!”

“有点吓人啊”

“最近地震有点多啊”“已经习惯啦”“防灾意识好低哦”“是这个警报太夸张了!”

教室中充满了轻松的喧闹声和松了一口气的轻松气氛,但这都与我无关,我的后背在冒冷汗,从刚刚开始就一直在冒了,我试图发出的声音也被周围喧闹声掩盖了。

“嗯?”

绚看向了我,在我意识里我虽然明知道两人会说些什么,但我还是忍不住说了出来:“你们看那里……”

有一个像巨大尾巴一样的东西正在从山坡上生长出来,刚刚看起来还像是一团烟的这个东西,现在看起来更粗更高了,它就像是一条半透明的大蛇,也像一条被绳子捆绑起来的破烂,又像是一条被龙卷风卷起来的红色水流一样。它一边悠闲的卷着旋涡,一边升上天空。我全身都散发着的恶寒告诉我,这玩意绝对不是善茬。

「なあ鈴芽、さっきからなんの話?」

上半身を窓から乗りだして山を見ていたマミが、怪訝そうに言う。絢が心配げな声で訊く。

「あんた、今日大丈夫?ちょっと体調悪いと?」

「……見えないの?」

確認するように私は呟く。不安そうな顔で、二人が私の顔を覗き込んでいる。見えないんだ。私にしか。大粒の汗が、不快な触感で顔に筋を引く。

「ちょっと、鈴芽!」

“诶铃芽,从刚刚开始你就在说什么啊? ”

上半身探出窗外看的麻美一脸惊讶的问道,绚用担心的语气问我。

“你今天没事吧,是不是身体有点不太舒服?”

“……你们看不见吗?”

我仿佛是为了确认一般嘟囔道,二人正在用不安的表情盯着我。她们看不见!只有我能……大颗的汗水不舒服的从我脸上流了下来。

“等会!铃芽!”

返事をする余裕もなく教室を飛び出し、私は走った。階段を転がるように降り、校舎を駆け出て自転車に鍵を挿す。ペダルを思いきり踏む。山に向かって海沿いの坂を登る。視線の先の山肌からは、赤黒い尾がやっぽりくっきりと伸びている。空に太い線を引くように伸びていくそれの周囲には、野烏やラスが群がってギャアギャアと鳴き声を上げている。でもすれ違う車の運転手たちも、堤防の釣り人たちも、誰も空を見ていない。町も人も、いつも通りのんびりとした夏の午後の中にいる。

「なんで誰も―?なんなのようあれっ!」

没有时间等她们回答了,我飞奔出教室,连滚带爬的下了楼梯,跑出了校舍,把钥匙插到了自行车上,使劲踩着踏板,登上了朝着山那边的沿海坡道。在我眼前,那条红黑色的尾巴还是那么清晰地向上延伸。天空中这条正在伸展的粗线周围,野鸟和乌鸦成群的发出“啊啊”的叫声。但不管是和我擦肩而过的司机,还是提拔上的钓鱼人,谁都没在看天空。无论是小镇还是人们,都像往常一样悠闲的过着夏日的午后。

“为什么谁都——?那玩意到底是啥啊!”

確かめなくては。だってあれは。もしかしてあれは。蹴り飛ばすように自転車から降りて、私はさっきの山道を再び走る。走りながら空を見る。今ではその尾は、空を流れる河のようになっている。粘り気のある濁流のような太い体から、何本かの筋が支流のように周囲に伸びていく。溶岩流を思わせる赤い光が、時折ちらちらと内部を流れている。何かが引きずりだされるみたいな低い地鳴りが、足元からずっと響いている。

我必须要确认才行,因为它是,不会是……我从自行车上跳下来,再次在刚刚那条山路上奔跑起来。我边跑边看向天空,那条尾巴现在就像是一条在天空中流动的河流一样,从它那看起来有粘性的粗粗的浊流身体里,朝着周围伸出了好几根像血管一样的支流。不禁让我想到了熔岩流所发出的那种红光,在里面刺啦刺啦流动的感觉。在我的脚下,好像有什么东西被拖出来一样低沉的地鸣声一直在回响着。

「まさか―」

私は口に出しながら、廃墟の温泉街に駆け込む。走り続けて肺が焼けそうなのに、足は無理矢理引っぱられているみたいにもっともっとと速くなる。石橋を渡り、廃ホテルのロビーを抜け、中庭へと続く廊下を駆ける。

「まさか、まさか、まさか―」

あたりに奇妙な匂いが漂っていることにふと気づく。妙に甘くて、焦げ臭くて、潮の匂いが混じっていて、ずっと昔に嗅いだことがあるような―。行く手から窓が近づいてくる。視界が開け、中庭が見える。

「ああっ!」

やっぱり―と、理由の分からないままに私は思う。あのドアだ。私の開けたあの扉から、それが出している。まるで小さな出口に不満を爆発させているかのように、赤黒い濁流を激しく体をくねらせながら扉から噴き出ている。

廊下を駆け抜け、私はようやく中庭に辿り着く。まっすぐ五十メートルほど先に、濁流を吐き出す白い扉が立っている。

“不会是……”

我一边念叨着一边跑进了废弃的温泉街。我的肺虽然因为一直在奔跑的原因而感到烧灼,但我的双腿就像被强制拉动着一样,越跑越快。我跑过了石桥,穿过废弃酒店的大厅,在通往中庭的走廊下奔跑。

“不会吧,不会吧,不会吧——”

我突然意识到周围有一种奇怪的气味在飘着,这是一种奇怪的甜味,混合着海水的味道,我有种很久以前就闻到过这味道的感觉——前面的窗户离我越来越近了,视野变得开阔起来,我看见中庭了。

“啊!”

果然,我不用想就知道,是那扇门。它是从我打开的那扇门中出来的,就好像对这小小的出口爆发不满一样,黑红色的浊流正在激烈的扭动着它的身体从门里涌出来。

我在走廊奔跑着,终于到达了中庭。在我前面五十米左右的,这扇喷出浊流的白门在那立着。

「ええっ!?」

目を瞠った。うねる濁流の陰で、ドアを閉めようとしている。長い髪。大きな体格。空を切り取るように美しい顔のライン。

「あの人!」

今朝すれ違ったあの青年が、必死の表情で扉を閉めている。そのたくましい両腕が、徐々に扉を押し戻していく。噴出が細くなっていく。濁流が堰き止められていく。

「何している!?」

「え!?」

私の姿に気づいた彼が、怒鳴った。

「ここから離れろ!」

“啊??”

我惊呆了,在这汹涌的浊流阴影下,我正想把门关上。只见一头长发,高大的身躯,那漂亮的脸部线条就好像要把天空切开一样的人。

“是那个人!”

今天早上擦肩而过的那个青年正在拼命关门。那双健壮的手臂正在慢慢的把门推回去,喷出的浊流慢慢变细了,浊流要被拦下了。

“你在干什么!?”

“嗯!?”

注意到我在这里的他冲我怒吼道。

“从这里离开!”

その瞬間、濁流が爆発するように勢いを増した。ドアが弾けるように開き切り、青年の体を吹き飛ばす。青年はレンガの壁に激突し、砕けた破片と一緒に水の中に倒れ込んでしまう。

「ええっ!」

私は慌てて石段を飛び降りて、浅く水の溜まった中庭を走って彼に駆け寄る。背中を水に浸した格好で、青年はぐったりと倒れている。

「大丈夫ですか!?」

かがみ込んで顔を寄せる。うう―と青年が息を漏らし、自力で上半身を起こそうとする。肩に手を回して助けようとしたところで、私は気づく。

「……!」

瞬间,浊流如爆发般喷涌出来,门一下子弹开了,青年直接被撞飞了,他猛地撞到了后面的砖墙上,和破碎的瓦片一起倒在了水里。

“啊!!”     

我赶紧从台阶上跳下来,穿过积满水的中庭向他跑去,只见青年的后背全浸在水里,筋疲力尽的倒在地上。

“你没事吧!?”

我蹲下来,凑近他。突然,青年呼了一口气,想靠自己坐起来。当我把手搭到他肩膀上想帮忙时,我发现……

“……!”              

水面が光っている―と思った直後、金色に光る糸のようなものが音もなく水面から浮き上がり、まるで見えない指につままれたように、すーっと空に伸びていく。

「これは―」

青年が呟く。中庭の水面のあちこちから、金色の糸が空に昇っていく。その先を見上げると、扉から噴き出した濁流が枝分かれしてぐるりと空を覆っている。まるで扉から一本の茎が伸び、その先端で巨大な赤銅色の花が一輪咲いたかのようだ。金色の糸は、その花に逆さに降りそそぐシャワーのように見える。そしてゆっくりと、その花が倒れ始める。

在我刚发现水面在发光后的没一会儿,有一个像金色的闪着光的线一样的东西在水面悄无声息的升了起来,就像被一只无形的手捏住一样,迅速的向天空延伸。

“这是……”

青年小声嘟囔着,中庭的水面到处都有金色的线在升向天空。我抬头一看,从门中喷出浊流的分支把周围天空都覆盖住了。这就好像有一根茎从门里伸出,然后在它的顶端开出了一朵巨大的红铜色花朵一样。那个金色的线看起来就像是下在花朵上的雨,然后慢慢地,这朵花开始倒了下来。

「まずい……!」

絶望から縛り出されたような青年の声を聞きながら、私は想像する。想像することが出来てしまう。午後の気怠い教室、その窓の外には、ゆっくりと地面に倒れてくる巨大な花がある。しかしその異形は誰にも見えず、異臭も届かず、世界の裏側から迫る異変には誰も気づかない。漁船の漁師たちにも、釣りをする老人たちにも、町を走く子供達にはも気づかれぬまま、その花は加速しながら地表に近づいていく。内側に溜めこんだその膨大な重さごと、花はついに地上に衝突し——。

“不好……!”

我一边听着青年那充满绝望的声音,一边脑补着。可以想象出在一个午后慵懒的教室里,窗外有一朵缓缓向地面倒去的巨大花朵,但是谁也看不到这个异形,也闻不到这异味,谁也注意不到这正在向世界逼近的异变。就这样趁着渔船上的渔夫们,正在钓鱼的老人们,还有在街上奔跑的孩子们都没有注意的情况下,这朵花一边加速,一边靠近地表。终于,由于它体内的这巨大能量而撞上了地面——

スカートの中のスマホがけたたましく鳴り出ていたのと、足元が激しく揺れ出したのはほぼ同時だった。口からは、悲鳴が飛び出ていた。

『地震です。地震です。地震です―』

地震警報の無機質な合成音声と、激しい揺れと廃墟の軋みに、私は呼び、耳を塞ぎ、その場にしゃがみこんでしまう。それは激しい地震だった。とても立ち上がれないほどの、激しく大きな地震だった。

在我的手机发出尖锐的警报声同时,脚下的地面也开始剧烈摇晃起来,我叫出了声。

【地震警报,地震警报,地震警报】

伴随着地震警报机械的合成声音,激烈的摇晃和和废墟咯吱作响的声音,我尖叫出了声,捂住了自己的耳朵,并蹲了下来。这是一场剧烈的地震,是那种让人几乎都站不起来的大地震。

「危ない!」

青年の体が私を押し倒す。私の顔半分が水に浸かる。直後にガキン!という重い衝撃音がして、眼前の水面に赤色が散った。血!?押し殺した青年のうめき声が、頭上で一瞬漏れる。青年は即座に身を起こす。一瞬だけ私を見て、「ここから離れろ!」と呼び、扉に向かって駆け出す。見ると、ドームの鉄骨があちこちで崩れ、落下し、水飛沫を上げている。

“危险!”

青年把我扑倒了,我的半边脸浸到了水里。紧接着就是一阵轰隆的撞击音,眼前的水面上洒落了一片血红,是血!?青年压抑着的呻吟声在我头上一闪而过。只见青年立刻站了起来,看了我一眼吼道“快从这里离开!”然后飞快的向门奔去。我向周围看去,穹顶的钢架散落下来,掉在了水面上,溅起了水花。

うおおぉ­­­——と聞こえる雄叫びとともに、青年は体ごと扉にぶつかった。ドアを押し、濁流を押し戻そうとする。私は呆然とその背中を見つめる。と、青年のシャツの左腕が赤く染まっていくことに私は気づく。痛みに耐えかねるように、青年は右手で傷口を押さえる。右肩だけでドアを押す格好になる。しかし濁流の勢いに、青年は扉ごと押し返されていく。

伴随着“唔啊啊啊”的呐喊声,青年一头撞上那扇门。他强行推着门,试图把浊流推回去。我呆呆地凝视着青年的背影,突然发现他左胳膊的衬衫都被血染红了,就好像无法忍受这疼痛了一样,他用右手捂住了伤口,变成了只用右肩去推门的姿势。但是因为这浊流的势力,他都要被门推走了。

怪我をしたんだ、私を鉄骨からかばって―。

ようやく私は気づく。『地震です』と警報は呼び続けている。地面は激しく揺れ続けている。さっきから私の右手は制服のリボンをきゅっと握っていて、もう指先に感覚がない。青年の左腕はもはやだらりと体の横に垂れ、それでも彼は背中で必死に扉を押している。この人は―ふいに泣きそうな気持ちになって、私は思う。訳もわからずにそう思う。この人は、誰にも知られず、誰にも見られぬままに、誰かがやらなければならない大切なことを——。私の頭の中で、何かが動き始めている。彼の姿が、私の中の何かを変えていく。地震は続いている。こわばった右手を、私は開こうとする。握りしめているものを、私は離そうとする。

他受伤了,他为了从掉落的钢架下保护我所以受伤了——。

我终于注意到了,地震警报还在不停地鸣叫着,地面也在不停地剧烈摇晃。从刚刚开始就在紧紧握着制服丝带的右手指尖已经没有知觉了。青年的左臂虽然已经无力的垂在了身体旁边,但他还是在用后背拼命的推着门。我突然感觉这个人有一种要哭的感觉,明明理由也不知道,但就是会去这么想,这个人,谁也不认识,也不被任何人所看见,只是独自做着一件不得不去做的重要事情——在我的脑海中,有什么东西被触动了,他的这幅姿态改变了我心中的什么东西。地震仍在持续着,我张开了僵硬的右手,之前还放不下的东西,现在我决定放下了。

水を蹴って、走り出した。

彼の背中が近づく。私は走りながら両手を前に突き出し、そのまま全力で扉にぶつかった。

「君は―‼」青年が驚いた目で私を見る。「なぜ⁈」

「閉じなきゃいけないんでしょ、ここ!」

そう呼んで、私は彼と並んで扉を押す。たまらなく不吉な感触が、薄い板越しに伝わってくる。その不快を押し潰すように、力を振り絞る。青年の力も増していくのを、私は手のひらで感じる。扉はギシギシと音を立てながら、徐々に閉まっていく。—歌?私はふと気づく。青年が扉押しながら、小さく何かを呟いている。思わず青年を見上げる。神社で聞く祝詞のようにも、古い節回しの歌のようにも聞こえる不思議な言葉を、青年は目をつむって一心に唱えている。やがてその声に、何か別のものが混じり始める。

「え……なに!?」

我踩着水就向他跑了过去。

我跑到了他的后背处,一边跑一边伸出了双手,就这样拼命向门撞去。

“你——!?”青年瞪大了双眼看着我,“为什么!?”

“这扇门不是必须要关上吗!”

这样一边说着,我一边和他一起开始推门。一种无法忍受的不详地触感透过那薄薄的门板传来,就好像为了压制这种不详感一样,我用尽了力气的同时,感受到了青年也在增加着力气。伴随着咯吱咯吱作响的声音,门也慢慢要关上了。——歌?我突然发现青年推门的时候还在小声嘟囔着什么,我不由得抬头看向他。青年闭上了眼睛,念叨着奇怪的东西,听起来像是神社里听到的祈祷词,又像是一种旋律古老的歌。很快,其它的什么东西开始与他的声音混合起来。

“嗯?什么!?”

聞こえてきたのは人の声——はしゃいだような子供の笑い声と、何人もの大人たちのざわめきだ。パパ早く、こっちこっち!久しぶりだなあ、温泉なんて——楽しそうな家族の会話が、まるで直接頭に差し込まれるように、私の内側に響く。

『俺、お祖父ちゃん呼んでくる!』

『お母さん、もう一回お風呂行こうよ―』

『あらあら、お父さんったらまだ飲むの?』

『来年もまた来たようね、家族旅行』

その遠い声は、色褪せた映像のようなものを私に連れてくる。活気のある往来。大勢の賑やかな若者たち。明るい未来をまっすぐに信じていた頃の、私が産まれる前のこの場所の姿——。

我听到了人的声音——是孩子们的欢声笑语和大人们的嘈杂声。“爸爸,快点!这边,这边。”“好久不见……”“温泉什么的……”这些看起来非常高兴的家庭对话就好像直接扎进我的脑海中一样,在我心中回响着。

“我叫爷爷去!”

“妈妈,再去泡一次嘛”

“哎呀哎呀,孩子爸又在喝啊”

“明年继续来吧,全家一起!”

这遥远的声音,给我带来了像是褪色了的影像一样的东西,是一种生机勃勃的过往。那时还是一群热闹的年轻人们一直坚信他们光明未来的时代,是我出生前的这个地方的景象。

パタン!大きな音を立て、遂に扉が閉まった。

「閉じた!」

思わず私は叫ぶ。青年は間髪を容れずに振りかぶり、鍵のよなものを扉に突き立てた。何もないはずの板の表面に一瞬だけ鍵穴が浮かび上がったように、私には見えた。

「お返し申す―っ!」

その叫びながら青年が鍵を回す。と、巨大な泡が割れるような音を立て、濁流が弾け散った。一瞬で夜が明けたような感覚に目眩を覚える。虹色に輝く雨が降りそそぎ、知れは水面をざーっと叩き、あっという間に風に流されて消えていく。

咣当!一声巨响,门被关上了。

“关上了!”

我不由得大喊起来,青年毫不停顿的高举起手,把看起来像是钥匙一样的东西插进了门里。明明在我看来应该什么都没有的木板上却在那一瞬间出现了个钥匙孔。

“奉还与您!”

青年一边大喊着一边转动钥匙。伴随着像是巨大气泡破裂的声音,浊流爆裂散开来,那种一瞬间夜晚突然亮了感觉让我头晕目眩起来。彩虹般闪耀的雨倾泻而下,拍打在水面上,转眼间就随着风一起消失了。

気づけば、遠い声たちは消えていた。

空は抜けるような青に戻り、地震は止まっていた。

扉はさっきまでの出来事が嘘のように、無言のままに立っていた。

これが、私の初めての戸締りだった。

当我回过神来,远处的声音已经完全消失了。

天空回到了以往的湛蓝色,地震也停了。

就好像刚刚发生的事都是假的一样,这扇门安然无恙的在这立着。这是我的第一次关门。

「君はなぜこの場所に来た?なぜミミズが見えた?要石はどこにいった?」

「え、ええと……」

強い口調だった。しどろもどろに、私を口を動かす。

「ミミズ?ええと、カナメイシって、石?え、ええ?」

睨みつけるような目。え、なんか責められてる?なんで?

「なんのことよ!?」

由于我推门实在是太用力了,导致我光是放下手都需要很大的力量,双腿都站不稳了。这片浅浅的水面已经完全恢复成了之前的风平浪静,周围充满了野鸟的叫声。青年在离我大概两步远的地方,紧紧地盯着这扇紧闭的门。

“啊,那个,现在这是……”

“明明应该用要石封上的。”

要石: 封印土地主人、防范灾难发生的角色,“要石”的位置会随着时代与日本土地的变迁改变,可透过交接的方式转移给被选定者。若是“要石”被拔出来,将会导致封印被解开。

“啊?”

青年终于把视线从门那里移开,直直的盯着我。

“你为什么会来这里?为什么能看见那些浊流(MIMIZUミミズ)?要石去哪了?”

“啊?那个……”

因为他在用很强势的语气问我,所以我有些语无伦次的回答道。

“MIMIZU?额,那个,要石?石头?啊?什么?”

我被他瞪着眼瞧着,嗯?感觉他好像在责问我?为什么?

“你到底在说什么啊?”

ふいに腹が立ち、喰ってかかるように私は言った。青年が一瞬驚いたようにまばたきをして、それから呆れたように溜息をついた。片目にかかった長い髪をぞんざい立ってくる。そんな私にはもう一瞥もくれず、彼は再びドアを見た。

「……この場所は後ろ戸になってしまっていた。後ろ戸からは、ミミズが出てくる。」

またしても謎単語をぼそりと言い、出口に向かって歩き出す。

「手伝ってくれたことには礼を言う。だがここで見たことは忘れて、家に帰れ」

大股で遠ざかっていく青年の左腕に、赤黒い血の染みが広がっていることに私は気づく。

「あ……」それは私をかばって出来た傷なのだ。「待って!」と、私は叫んでいた。

我火儿突然就上来了,反驳的回答道。青年惊讶地眨了一下眼睛,然后无奈的叹了口气,把盖在眼前的长发随便撩了上去。就这样没有再施舍我一眼的再次望向了那扇门。

“这个地方变成了后门,后门里会出现那些浊流”

后门:连结往生者世界“常世”与人类所处的“现世”的门扉,平常仰赖人们心中的重量和思绪镇定土地和门,门后是所有时间都汇聚在一起的空间。若是人的内心的重量消失,等于从人们的记忆中消失或思绪减少,将会导致后门被打开。

他又神秘兮兮的说着谜语词,然后向出口走去。

“非常感谢你帮我,但还是把这里看见的东西都忘了,回家去吧。”

他大步流星地走了,我突然注意到红黑色的血液在青年的左臂上蔓延开来。

“啊……”这是为了保护我而造成的伤口。“你等会儿!”我叫住了他。

昼間のこの時間なら、環さんは絶対に家にいない。その確信があるから、家の鍵を開けた。

「二階に行っててください。救急箱取ってきますから」

玄関のたたきに立ったままの彼にそう言って、私はリビングに向かう。

「いや、気持ちは有り難いけど、俺はもう——」

「そんなに病院が嫌ならせめて応急処置!」

さっきから頑なに手当てを嫌がる彼に、私はぴしゃりと言う。医者が嫌なんて子供のわがままか。見慣れた我が家の玄関が、彼が立っているとやけに小さいものに見る。やれやれという雰囲気で彼が階段を昇っていく足音を、私は背中で聞いた。

白天的这段时间环阿姨肯定不会在家,正因为我很确信,所以我拿钥匙把门打开了。

“请你到楼上去,我先去拿急救箱。”

我对着站在门口的他说完,就向客厅走去。

“算了吧,你有这份心意我就很感激了,但我就……”

“这么讨厌医院的话,至少让我给你做一下应急措施吧!”

我对着从刚刚开始就固执拒绝治疗的他严厉的说道。他是讨厌医生的小鬼吗?明明已经看惯的家门口他站在那里却显得狭小起来。再不去就不礼貌了的微妙氛围升了起来,我这才听到了后面上楼的脚步声。

町の上空には、珍しく報道のヘリプターが飛んでいた。そのくらい大きな地震だったのだ。廃墟から家に戻る道すがら、あちこち石塀が崩れ、屋根瓦が落ちていた。いつもならしんと静まりかえった集落なのに今日はまるでお祭りのように人が往来に溢れていて、倒れたものを片付けたり無事で良かったわあと話し込んだりしていた。

城市上空罕见的飞着一架新闻直升飞机,毕竟是这么大的地震。从废墟回家的路上,周围到处的石墙都坍塌了,屋顶的瓦片也都掉落下来。通常都很宁静的村子在今天就像过庆典了一样人来人往,人们都在清理掉落的东西,互相安慰着没事就好之类的话。

私の家のリビングにも、物が散乱していた。本棚にあった本が床一面に散らばり、壁の銅版画が落ち、観葉植物のトネリコは鉢ごと倒れてフローリングに土がこぼれていた。壁の一面に設えられた環さんの思い写真コーナーでも、フォトフレームがいくつか壁から落ちていた。小学校入学式での、なんだか泣き出しそうな表情をした自己の写真をちらりと見やりつつ(隣では十年分若い環さんが頬をゆるませている)、私は収納を開けて救急箱を探した。

我家的客厅也散落了好多东西,书架上的书掉了一地,墙上的铜版画也掉下来了,白蜡树的花盆也倒了,泥土洒了一地。就算是环阿姨在墙上装饰的怀旧照片角,也有几个相框从墙上掉了下来。我一边瞥着自己在小学入学仪式上满脸快要哭出来的照片(在我的旁边是一脸温婉,年轻十岁的环阿姨)一边打开了收纳箱,把急救箱找了出来。

私の部屋もさぞ散らかっているだろうなと覚悟して二階に上がったら、こちらは逆に妙にこざっぱりとしていて驚いた。私が救急箱を探している間に青年が片付けてくれたらしく、当の彼は片付いた部屋の真ん中に座ったまま、よほど疲れたのか眠り込んでいた。よく見ると、部屋の隅にあったはずの私の子供椅子に腰掛けている。黄色いペンキで塗られた、木造りの古い小さな椅子だ。片付けられた部屋といい幼い椅子といい思いがけず恥部を見られてしまったような気まずさに、私は大声で「さあまず傷口を洗わないと!」と言って彼を起こしたのだった。

我的房间一定也会很杂乱吧,我带着这样的觉悟上了二楼,但相反我的房间整洁到让我惊讶,好像是我在找急救箱的时候青年帮我收拾的。他坐在了房间的正中央,可能是因为太累而睡着了。我仔细一看,发现他坐在了本应该放在房间角落的我儿时的椅子上,那是一把涂有黄色油漆的木制的小旧椅子。不管是因为收拾好的房间还是因为那幼稚小椅子,我都有一种被看透了的尴尬感。于是我大声的把他叫醒,说道:“快先把伤口清理一下吧!”

『 ——先ほど十三時二十分頃、宮崎県南部を震源とする最大震度六弱の地震が発生しました。この地震による津波の心配はありません。また現在のところ、怪我人等の人的被害の情報は入っておりません』

そこまで聞いてから、青年はスマホの画面をタップしてニュースを閉じだ。彼の裂傷は血の印象ほどにはひどくはないようだったけれど、念のため水で丁寧に洗った後に滅菌シートを貼った。私は椅子に座った青年の横に膝立ちになり、彼の左腕を取って包帯を巻き始める。太く引きしまった腕だった。ロングシャツの胸には、扉に鍵をかけたあの不思議な鍵が下げられていた。枯れ草色の金属製で、何やら凝った装飾が施されている。開け放した窓からそよ風が吹き込み、窓辺の風鈴を小さく鳴らした。

【——就在刚刚13点20分左右,宫崎县南部发生了震源最大强度为6级的地震,不用担心该地震会引发海啸。另外,目前为止还没有收到有受伤人员的报告】

听到了这里,青年点了下手机屏幕关掉了新闻。他的伤口似乎没有印象中留了那么多血一样严重,但以防万一我还是用水仔细的给他清洗了一下并贴上了灭菌贴。我跪坐在了坐在椅上的青年旁边,抬起他的左臂开始缠绷带,这是一个健壮的且紧绷的手臂。在他的长衬衫胸前挂着给那扇门上锁的那把不可思议的钥匙,它是由干草颜色的金属制成,并以某种精致的方式去加以点缀。一阵微风从打开的窗户吹了进来,引得窗边的风铃叮铃响了起来。

「慣れてるんだな」

包帯を扱う私の手元を見て彼が言う。

「お母さんが看護師だったから―ていうか、訊きたいことがたくさんあるんですけど!」

「だろうな」と、整った形の唇が微かに笑う。

「ええと……ミミズ、って言いましたよね?あれって」

「ミミズは日本列島の下をうごめく巨大な力だ。目的も意志もなく、歪みが溜まれば噴き出し、ただ暴れ、土地を揺るがす」

“你很熟练啊”

他看着正在绑绷带的我的手说道。

“因为我的妈妈是一名看护师,话说回来,我有很多问题想问你来着!”

“也是昂”他那完美的嘴唇微笑着说道。

“那个……MIMIZU,你是这么说的吧,那是什么?”

“MIMIZU是日本列岛下面流动的巨大能量,没有目的和意志,只要积攒了足够多的扭曲就会爆发出来,发生骚动,大地也会摇晃起来。”

「え……?」ぜんぜん頭に入ってこない。いやでもとにかく、「やっつけたんですよね?」と私は訊く。

「一時的に閉じ込めだけだ。要石で封印しなければ、ミミズはどこからかまた出でくる」

「え……また地震が起きるってことですか?要石って、さっきも言ってましたよね?それって―」

「大丈夫」優しく蓋をするように彼が言う。「それを防ぐのが、俺の仕事だ」

「仕事?」

包帯が巻き終わる。サージカルテープを貼って処置を終える。でも、疑問は逆に増えている。

「ねえ」私は声を硬くする。「あなたって、いったい―」

「ありがとう、手間をかけたな」

青年は柔らかくそう言って、居住まいを正してまっすぐに私の目を見、頭を深く下げた。

「俺の名前は草太。宗像草太です」

「え!あ!ええと、私の名前は、岩戸鈴芽です」

“嗯……?”他说的话我完全理解不了,但无论如何“你把他抓住了对吧。”

“只是暂时把它困住了,如果不用要石封印的话,MIMIZU会从其他地方再钻出来。”

“啊……还会发生地震吗?你刚刚也说了要石吧,这是……”

“别担心。”他的声音温柔到仿佛盖上了一层棉被一样“我的工作就是为了防止这种事情发生。”

“工作?”

绷带绑完了,最后再用外科胶带固定一下就处理好了。但是我的疑问反而变多了。

“喂。”我的声音很坚决,“你到底是……”

“谢谢,辛苦你了”

青年温柔的说着,端正了坐姿,看着我的眼睛,低下了头。

“我叫草太,宗像草太。”

“诶!啊!那个,我叫岩户铃芽。”

急な名乗りに驚いてしまって、私はしどろもどろに名前を返す。すずめさん、と口の中で転がすように小さく繰り返す、草太さんはふわりと微笑んだ。——と、

「にゃあ」

「わっ!」

突然に猫の声がして、顔を上げると窓際に小さなシルエットがあった。出窓の手すりにちょこんと座っているのは、仔猫だった。

我被这突如其来的自我介绍吓了一跳,语无伦次的回了我的名字。铃芽,他小声地在嘴里重复念着,微笑着。突然——

“喵~”

“哇啊!”

突然传来了猫的叫声,我抬头一看,窗边出现了一个小小的黑影。在窗台的护栏上端坐着一只小猫。

「え、なにこの子、痩せすぎ」

手のひらサイズの小さな体は骨張ってげっそりと痩せていて、黄色い目だけがぎょろりと大きい。まっ白な毛並みの中で左目だけ黒い毛で囲まれていて、なんだか片目を殴られて隈取されたみたい。耳はペタリと力なく伏せられている。ずいぶんと哀れを誘う顔つきの猫だった。

「ちょっと待ってて!」

猫と草太さんにそう言って私は台所に急ぎ、煮干しを見つけて小皿に入れ、水と一緒に窓際に置いた。仔猫はスンスンと匂いを嗅ぎ、慎重にひと舐めし、それからがつがつと食べ始めた。

「相当お腹すいてたのねえ……」

“诶,这孩子怎么回事,也太瘦了。”

是一个骨瘦如柴只有手掌大小的身体,唯独那双黄色的眼睛大大的。在它那雪白的毛发中,只有左眼被黑色的毛包围着,就好像被打了一样凸显出来。耳朵无力的垂在两边,看起来让人觉得是一只非常可怜的猫。

“稍微等一下哦!”

我对猫咪和草太先生说完就赶紧向厨房跑去,把小鱼干放进盘子里,和水一起放到了窗边。小猫轻轻的闻了闻,谨慎的舔了舔,然后开始大口大口地吃了起来。

“看来是饿坏了啊……”

私はあばらの浮き出た体を眺める。このあたりでは見かけない猫だった。

「君、もしかして地震で逃げてきたのかな。大丈夫?怖くなかった?」

白猫は顔を上げ、私の顔をまっすぐに見て、

「にゃあ」と答えた。

「かわいっ!」

なんてけなげなのっ!草太さんも隣で微笑んでいる。

「ね、うちの子になる?」と、思わず私は猫に言う。

「うん」

「え?」

我望着这个连肋骨都快漏出来的身体,这种猫在这附近是看不到的。

“你不会是因为地震逃出来的吧,没事吧,怕不怕。”

白猫抬起头,直直地看着我。

“喵~”它叫道。

“好可爱!”

“好勇敢啊”草太先生在旁边微笑着夸着。

“你当我家的小猫咪吧”我想都没想的说道。

“嗯。”

“啊?”

返事があった。ビー玉みたいな黄色い目が、じっと私を見つめていた。枯れ木のように痩せていたはずの猫の体が、いつの間にか大福みたいにふっくらと肉付いている。耳がぴんと立っている。ちりーん。思い出したように風鈴が鳴る。白い毛に覆われた小さな口が、開く。

「すずめ やさしい すき」

幼い子供のようなたどたどしい声。猫が、喋っている。黄色い瞳に、人間めいた意志がある。その目が私から草太さんに移り、突然に細められた。

「おまえは じゃま」

「——!」

它回答了。它那像弹珠一样的黄色眼睛目不转睛的盯着我。本应该像枯树一样的身体不知道什么时候变的跟大福一样圆了起来,耳朵也竖起来了。叮铃。风铃突然响了起来,小猫那被白毛覆盖着的小嘴张开了。

“铃芽,很温柔,喜欢。”

是一个像小孩子一样的声音,这个猫在说话。黄色的瞳孔里有着像人类一样的意志。那双眼睛从我这里转移到了草太先生的上面,然后突然就眯了起来。

“你,碍事。”

“——!”

ガタン、と何かが倒れる音がした。反射的にみると、草太さんの座った椅子が倒れていた。椅子だけが倒れていた。

「え?えっ、ええ!?」

私は部屋を見回す。

「草太さんっ、どこっ⁉」

いない。一瞬前までここにいた草太さんの姿が、どこにもない。白猫は窓辺でしっとしたままだ。その口元がにたりと笑ったかのように見え、全身が総毛立つ ——と、コトッと足元でまた音がした。椅子が倒れている。何かがおかしい。コトン。

「……?」

啪嗒,是什么东西倒下的声音。我下意识的回头一看,草太先生坐着的椅子倒了,只有这把椅子倒了。

“啊?嗯,啊!?”

我环视周围一圈。

“草太先生,你在哪?”

消失了,刚刚还在这里的草太先生已经不见踪影了。那只白猫仍然在窗台上一动不动,它的嘴角仿佛在冷笑一样的表情让人毛骨悚然。咣当,我的脚下又传来的声音,是椅子倒了,这不对劲。啪嗒。

“……?”

その木製の子供椅子は、左前脚が欠けてしまっていて三本脚である。そのうちの一本が、ぶん、と振られるように動いた。その反動で、仰向けだった椅子が横倒しの格好になり、さらに二本の脚で床を蹴るようにして、起き上がった。

「え……?」

椅子は三本脚でカタカタと必死にバランスを取りながら、二つの瞳で私をじっと見る。そう、元々その椅子の背板には、目に見立てた凹みが二つ彫ってあるのだ。黄色いペンキで塗られた三本脚の子供椅子は、今度は自分の体を確認するかのように、顔を下に曲げて自身を見た。

那个木制的儿童座椅左前腿已经缺失了,现在成了一把三腿椅子。其中一条腿甚至还在摆动着,正是因为这个反作用,原本仰卧的椅子侧翻在地,又用两条腿蹬了蹬地板才站了起来。

“啊?”

椅子一边用它的三条腿咣当哐当的拼命保持平衡,一边用它的两只眼睛看着我。是的,原本这把椅子的靠背就有两个凹下的洞,看起来很像眼睛。涂成黄色的三腿儿童椅,就好像为了确认自己的身体一样,现在正在低下头弯腰看着自己。

「なんだ、これは……」

椅子から音が出た。あの柔らかくて低い声。

「え、ええええ——!」思わず大声を上げてしまう。「そ、草太さん……?」

「鈴芽さん……俺は……?」

とたんにバランスを崩し、椅子は前につんのめる。が、即座に前脚を蹴り上げて身を起こし、その勢いでくるくると回ってしまう。必死に三本の脚を動かしている。カタカタとタップダンスのような音が部屋に響く。椅子はようやく止まり、窓辺の猫を見据える。

“这是怎么回事啊……”

椅子出声了,是那个温柔低沉的声音。

“诶,诶诶诶诶——!”我不禁大喊出声。“草,草太先生?”

“铃芽小姐……我……?”

就好像突然失去了平衡了一样,椅子向前倒去,但它立刻蹬着前脚站了起来,并借着这股力量转了起来,拼命的动着它那三条腿,咔哒咔哒的像踢踏舞一样的声音在屋里回响着。终于,椅子停了下来,看向了蹲在窗台上的猫。

「お前がやったのか⁉」

椅子が——草太さんが、気色ばんで叫ぶ。と、猫は窓辺から屋外にひらりと飛び降りた。

「待て!」

椅子は駆け出し、棚を足場に窓辺によじ登り、そのまま窓から駆け出した。

「え―っ、ちょっとちょっとちょっと!?」

ここ二階なんですけど!うわあ、と草太さんの叫び声が聞こえて、私は慌てて窓から身を乗り出す。椅子が、屋根の斜面を滑り落ちて行く。庭の洗濯物に落下して姿を消し、一瞬後、シーツをひるがえして駆け出てきた。即に庭を抜けて道路を走っている白猫を追って、椅子も細い車道に飛び出す。通りかかった車が驚いてクラクションを鳴らした。

「噓でしょおお⁉」

“他喵你干的吗!”

这把椅子——不,是草太先生正在生气的喊着,然后小猫就从窗台跳到了屋外。

“等等!”

椅子跑了起来,把架子当踏脚板爬上了窗台,就这样从窗户跑了出去。

“啊——?等会等会等会!?”

这里是二楼啊!呜哇,我听到了草太先生的叫声后赶紧从窗户上探出身子。只见椅子从屋顶的斜坡上滑了下来,落在了院子里晾晒的衣服上不见了,一秒后,椅子从床单中飞奔而出,立马穿过了庭院,追着在马路上奔跑的白猫,奔上了狭窄的车道。路过的汽车都被吓得按起了喇叭。

“骗人的吧!?”

追わなきゃ!と思った一瞬後に、正気⁉と自分で思った。今日味わった恐怖や悪寒や混乱が、私の中に一気に蘇る。ミミズと地震?喋る猫に走る椅子?私とは関係ないし、関わらない方がいいに決まっている。私の世界はそっちじゃないでしょと、そっちがどこなのかもよく分からないままに私は思う。環さんや絢やマミ、友達の顔が頭に浮かぶ。——でも。でもあれは、私たちにしか見えなかったのだ。

我得追他们才行!但很快,我清醒了,我想着。今天所经历到的恐怖,恶寒和混乱在我的心中一口气爆发了。浊流和地震?会说话的猫和奔跑的椅子?和我又没关系,我决定我还是不要参与比较好,我的世界不属于那边吧,那边的世界不是我所熟悉的。环阿姨,绚和麻美,朋友的脸在我脑海中浮现出来。——但是,但是那是只有我们才能看见的东西。

床に落ちていた草太さんの鍵を摑み、私は駆け出していた。迷っていたのはたぶん一秒。階段を駆け下りる頃には、迷ったことさえ私は忘れた。

「えっ、鈴芽!」

「環さん!」

玄関を出ようとしたところで、環さんと鉢合わせた。

「ごめん、私ちょっと!」駆け抜けようとすると、「ちょっと、どこ行くと?」と腕を摑まれる。「私、あんたが心配で戻ってきたっちゃが!」

「え?」

「地震!あんだ、ぜんぜん電話に出てくれんから——」

「ああっ、ごめんっ、気づからなかった!大丈夫だから!」

これじゃ見失ってしまう。環さんの手を思いきり振り払い、私は道路に飛び出した。ちょっとこら、待たんけ!環さんの叫び声が遠ざかっていく。

我抓住掉在地板上草太先生的钥匙后就直接跑了出去,大概只犹豫了一秒,在我跑下楼梯的时候甚至连我有犹豫过的事情都忘了。

“诶,铃芽!”

“环阿姨!”

我在刚准备出玄关的时候和环阿姨撞上了。

“抱歉!我有点”当我正想跑出去的时候,“等会,你要去哪?”我被环阿姨抓住了胳膊。“我正是因为担心你才回来的!”

“啊?”

“地震!你啊,是完全不接我电话的——”

“啊,抱歉,我没注意到!我没事的!”再这样下去要追丢了!我使劲的甩开环阿姨的手,冲到了马路上。“等等!给我回来!”环阿姨的叫喊声渐渐远去了。

草太さんたちが走り去った方向に坂を下っていくと、ようや視界の先にその姿が見えてきた。草太さんは脚をもつれさせながら、転がるように坂を駆け下りている。その更に先から、中学生の男女が坂を登ってきている。と、椅子が前のめりに転び、すざざ―っと坂を滑り、中学生たちの前で停止した。

我朝着草太先生他们跑去的方向下了坡道后才终于在视野的前方看到了他们的身影。草太先生一边扭动着它的脚一边像滚下去一样下了坡道。在它稍远一点的前方,一对初中男女正在登上坡道。椅子滚动着向前倒去,并在坡道上滑行,然后在初中生的面前停下了。

「おわっ!」「ええっ、なんけこれ?」「椅子?」

驚く彼らの前で、草太さんはすくっと立ち上がり、しかしバランスが取れないの彼らの周囲をぐるぐると回ってしまっている。

「うわあ!」謎の物体に絡まれ、恐怖の叫び声を上げる中学生たち。やがてようやく方向を定めることが出来たのか、草太さんは彼らから離れて再び坂を駆け下り始めた。

“呜哇!”“诶诶,这是啥玩意?”“椅子?”

在他们惊讶的目光中,草太先生一下子站了起来,但因为无法保持平衡而围着他们转圈圈。“啊!”初中生们因为被这神秘物体的纠缠而害怕的尖叫出来。不知道是不是终于确定了方向,草太先生离开他们跑下了坡道。

「すみません——!」

スマホで椅子の後ろ姿を撮りまくる彼らに、私は突進してしまう。彼らをかきわけ、椅子を追う。背中でシャッタ―音が響きまくっている。わーん私まで撮られてるよ―、これSNSに上げられちゃったりしないよね⁉草太さんの先に小さく猫の姿もあり、その先には港がある。 

コンビニ前のヤンキーみたいに埠頭にたむろしていたウミネコが、一斉に飛び立った。その場所を白猫が駆け抜け、椅子が駆け抜け、すこし遅れて私も走り抜ける。猫の向かう先には、お客さんが乗船中のフェリー。ちょっとちょっと——嫌な予感を感じつつも、私はとにかく走る。

“借过一下——!”

我猛地冲了向了用手机对着椅子背影猛拍的初中生们,然后拨开了他们,去追椅子。快门声在我背后不断回响,哇,连我都拍了啊,这个不会传到SNS上吧!?草太先生的前面是那只小猫,而他们的前面是港口。

在便利店前像不良少年一样聚集在码头的海鸥一齐飞了起来,在它们中间白猫跑了过去,接着椅子也跑了过去,过了一会儿我也跑了过去。小猫的目的地是正在登船中的渡轮。等会,等会——我有种不祥的预感,但总而言之我还是跟着跑了过去。

「おーい、鈴芽ちゃーん!」

「えっ⁉」

野太い声がして、そちらを見ると海を狭んだ隣の埠頭から稔さんが大きく手を振っていた。環さんの同僚で、もう何年も見え見えの片思いを環さんに抱いている報われない男性である。漁船から荷揚げをしている最中らしく、優しい人なので私は嫌いではないのだけれど、

「どんげしたと―っ?」

“嘿!小铃芽!”

“诶-?”

是一个很粗野的声音,我向那边看去,是稔先生正站在狭窄的码头上向我大摇大摆地挥着手。他是环阿姨的同事,也是一位多年对环阿姨明显抱有单恋却没有得到任何回应的男人。现在好像正在给渔船卸货,因为是个温柔的人,所以我不讨厌他。

“你干嘛来?”

と今訊かれても、とても返事が出来る状況じゃない。この港のフェリー乗り場は単なる剝きだしの鉄階段で、トラックの運転手さんやなんかがどやどやとタラップを歩いている。猫が彼らの足元をすり抜け、草太さんがそれに続く。なんやなんやと、おじさんたちが驚いて声を上げている。

「ああっ、もう!」

もうやけくそに、私も鉄階段に突進する。

「ほんっとにすみません―!」

とにかく謝りながらおじさんたちを押しのけてタラップを走り抜け、私もフェリーに飛び込んだ。

但就算现在问我,我也回答不出来。这个港口的码头就是一个斑驳锈迹的铁楼梯,卡车司机和其他什么人在扶梯上来回走动着,一只猫从他们脚边穿过,而草太先生也紧跟其后,于是大叔们也被吓得喊叫起来。

“啊!真是的!”

在绝望中,我也冲向了铁楼梯。

“真的对不起!”

总之,我一边道着歉一边推开了那些大叔穿过扶梯,跳上了渡轮。

『大変長らくお待たせいたしました。本日正午過ぎに発生した地震により出港が遅れておりましたが、安全が確認されましたので、本船は間もなく出港いたします』

いつもは遠くに聞こえる汽笛が、鼓膜を圧する音量であたりに響きわたる。傾いた午後の陽射した押されるように、猫と椅子と私を乗せたフェリーはゆっくりと港を離れ始めた。

【很抱歉让您久等了,由于今日午后发生的地震让出港时间推迟了,现在我们已确认了安全,所以本船将要即刻出港。】

平时都是在很远处才听到的汽笛声,现在在以让耳膜发麻的音量响着。在落幕的午后阳光的推动下,载着猫,椅子和我的渡轮开始慢慢离开了港口。

标签: 日本列岛

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